伝統と革新が融合する南部鉄器「スワローポット」

新世代のライフスタイルに寄り添う鉄瓶の誕生

日常を見つめ直すきっかけとなったパンデミックを経て、伝統工芸の新たな息吹が生まれました。南部鉄器の伝統を受け継ぎつつ、現代のニーズに応えるデザインへと進化した「スワローポット」は、私たちの生活に新しい価値をもたらします。

コロナウイルスの影響で、私たちの日常は一変しました。失われた日常の中で、ゆったりとした生活やマインドフルネスへの関心が高まり、「禅」や「日本の茶道」など精神性を重んじる文化が見直されました。そんな中、伝統的な南部鉄瓶が注目され、その機能性とデザインが現代のライフスタイルに適応する形で再評価されています。

今日の家族構成は小さくなり、キッチンツールの選択も個性的で機能的なものが求められています。伝統的な南部鉄瓶の大きさやデザインは、市場のニーズに合わなくなってきました。しかし、その伝統と品質を維持しつつ、現代のライフスタイルに適したユーザーフレンドリーなデザインへと進化させることが、このプロジェクトの目的です。

1980年代に製造された製品を再検討し、小さな家族向けの小型鉄瓶をデザインしました。スカンジナビアデザインやミッドセンチュリーデザインの影響を受けたこれらの鉄器は、現代の家族が求める機能性とデザイン性を備えています。この「スワローポット」は、SNSでの注目を集め、伝統的な南部鉄器のイメージを一新しました。

南部鉄瓶の製造と使用は約400年前に始まりました。伝統的な職人技とデザインが、大塚製作所の第七代職人である菊池章によって受け継がれています。しかし、伝統的なデザインは現代の生活スタイルには適していませんでした。新しい「スワローポット」は、これらの問題に対応し、小さな家族の現代的なライフスタイルに適した印象を与えます。

伝統的な南部鉄瓶には、現代の小さな家族には不向きな点がありました。そのため、サイズを小さくし、水が底に残りにくい直線的なスクエア形状に変更しました。取っ手は動かないストレートラインにし、注ぎ口と同じ高さに設定することで、手首のわずかなひねりで簡単に注ぐことができます。この鉄瓶は、ツバメのような外観から「スワローポット」と名付けられました。

南部鉄瓶の製造には、鉄表面に酸化膜を形成する伝統的な釜焼き方法が用いられています。これにより、錆びることなく鉄分を水に供給することができます。大塚製作所では、製造時のCO2排出量を削減するために、一般的なコークス炉の燃料を、カーボンニュートラル素材とされるリンゴの絞りかすから作られたバイオコークスに置き換える研究を近畿大学と共同で行っています。

この「スワローポット」は、1980年代のデザインにインスパイアされた小型の鉄瓶で、小さな家族の現代的なライフスタイルに変革をもたらします。伝統的な南部鉄器のイメージを変え、使いやすさを加えたこの製品は、鉄分補給機能を保ちつつ、伝統的な釜焼き技術により錆を防ぎます。この小型の鉄瓶は、市場にあるエナメル加工された鉄瓶の限界を超え、鉄瓶と急須の両方の役割を果たします。

このデザインは、2024年のA'デザインアワードで銀賞を受賞しました。銀賞は、卓越した専門知識と革新性を示すトップレベルの創造的で専門的に注目すべきデザインに与えられます。これらのデザインは、その強力な技術的特性と素晴らしい芸術的技術によって賞賛され、ポジティブな感情、驚き、そして驚嘆を引き起こします。


プロジェクトの詳細とクレジット

プロジェクトデザイナー: Akira Kikuchi
画像クレジット: Akira Kikuchi
プロジェクトチームのメンバー: Producer & Art Director: Kaito Kikuchi of Nambu Ironware Studio Oitomi Collaborative production partner: Marusan Shikki Hidehira-nuri lacquerware manufacture
プロジェクト名: Two-in-one Nambu Ironware Swallow Pot
プロジェクトのクライアント: Nambu Ironware Studio Oitomi


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Two-in-one Nambu Ironware Swallow Pot IMG #5
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